イルカ・フレンズ・ミュージック

K-POPから全てを学んでいます

イルカ・フレンズ・ミュージック

母から送られてきたLINEを開くとイルカが飛び跳ねる動画が再生された。長崎へ旅行に出かけた先で見に行ったようで、キュインキュインというあの高い声がつややかなイルカの体を水中から空中へ何度も引き上げていた。水族館のショーか何かかと思いながら「イルカちゃんやん」と送信すると、そういった類いのことには何も触れられることなく「この子ミヅキちゃんていうねん」というメッセージだけが返ってきた。

キュインキュイン跳ねるイルカのミヅキというその名前は、私の親友と同じ名前であった。

 

 

ミヅキは小学生の頃最寄りのバス停が同じで仲良くなった友達で、測ったことはないが私とミヅキのIQは完全に一致していた。人口も少なく少子化が進み続けるこの町で、IQが完全に一致した子供が同じバス停からバスに乗ることがあるだろうか?ミヅキは私とユーモアが全くもって一致しないし、私はミヅキの中二病なところをしらこい目で見ていたわけだが、なまじIQが完全に一致していると、二人きりで”唯一の話”ばかりが出来てしまい、切り離そうなどと思うはずがない関係になってしまうわけで、世界はそれを友情と呼ぶんだぜとあのサンボマスターのメガネの人に苗場ロックフェスで歌われ、私とミヅキはそれをバカにした目でナナメに見つめる。私とミヅキは高校卒業までずっと一緒にいて、喧嘩をしたり、仲直りのメールをお互いの親のケータイで送信しあったり、テニスの王子様にハマったり、ハマっていた時期を後悔したり、一回も話したことのない同級生に手当たり次第あだ名をつけて意地汚く笑ったり、突然口を聞かなくなったり、突然口を聞かなくなってごめんと言ったりした。

 

 

小学生の頃の修学旅行の行き先は千葉東京神奈川。鎌倉と江ノ島に行って東京タワーに登ってディズニーランドで遊ぶのを三日間でチャチャっとガキ共に味わわせるわけだ。江ノ島水族館ではイルカショーを見させられた。ミヅキは違うクラスだったからか確か別行動をしていて一緒には見ておらず、私の隣にはてれび戦士と同級生だったことが自慢の転校生が座っていた。飼育員の女性特有のあの嘘みたいな喋り方に乗せて三頭ほどのイルカが猛スピードで泳いでは跳んだり跳ねたり輪っかをくぐってみたりまた猛スピードで泳いでみたりする中、飼育員の女性がこう言った。「今日頑張ってくれたこの子達、まずはユイちゃーん!」

観客席のそこら中に座っていたクラスメイトが一斉に私の方へ顔を勢いよく向け私の顔を見た。ユイというのは私の名前と同じだった。

 

 

ミヅキにLINEを送ろうとアプリを開くといつもその瞬間にミヅキからLINEが来た。怖いからやめてと言っては知らんと返ってくるだけのやりとりを何度もした。大学生になって毎日一緒にいることもなくなってもその現象は続き、夏休みには二人でディズニーに行き、年始に地元へ帰れば二人で初詣に行った。

春休みには二人で鎌倉・江ノ島旅行をした。小学生の修学旅行で行ったきりだし、普通に今行った方が楽しくない?と言った。鎌倉でしらす丼を食べれずに海鮮丼を食べてたいして美味しくなく、江ノ島の海でほんのちょっとだけはしゃぎ、泊まったホテルのベッドなんだか布団なんだかわからない謎の寝具に寝転んでNCTのMVを見て、小学生の修学旅行以来の江ノ島水族館で隣に座ってイルカショーを見た。20歳になった私たちにとってイルカショーは目の毒で、つまりはイルカの生命の躍動を感じて泣いてしまったのだった。「え、なんか…泣けない?」と聞くと、「え、わかる」と返ってきた。流す涙に反して会話のIQはものすごく低かったが、私たちは幼少期から完全に一致しているのだから仕方がなかった。ユイというイルカはもう江ノ島水族館にはおらず、ミヅキというイルカもいなかった。

 

 

ミヅキというのは仮名だが人間に名付けるには少し珍しい名前で、ユイという私の名前も仮名だがイルカにつけるには優先順位は低そうな名前だ。この2024年になってミヅキというイルカがいることを知った私はもうわかった、あ、私たちがイルカだったのである。そういえば目に見えない超音波は私たちに確かにあって、何も言わずに目を合わせて理解しあったと思えば、目に見えることは何も起きていないのに数ヶ月口を聞かなくなったのだった。なら私たちはいつでも人間をやめてイルカに戻れるから大丈夫。人間として生きたければイルカから戻ることもできるから大丈夫。私とあなたが目を合わせて話している時にだけ立ち現れる「私」と「あなた」の存在が、互いに必要なくなった時には、イルカになってそれぞれ勝手に飛び跳ねてればいい。ミヅキは長崎の海で、ユイは江ノ島水族館で暮らそうとアシタカも言っていた。アシタカ?誰だお前は。どこで泳いで跳ねるかくらい私たちは自分で決められるから、あっちに行っててください。