大雨の中自転車を漕いだらたった3分でずぶ濡れになってしまうと分かった。髪も灰色のコートもぐしょぐしょになってしまった。早朝からバイトをこなし、夕方に上がり家に帰る時のことだった。こんなに一瞬で全部台無しになることあるんだなと、そんなふうに考えていた。
バイトの女の子の友達何人かとわたしの家に集まってごはんを食べることになっていた。家を軽く掃除して、ピザと、おかしを買い込んで、友達を家に招き入れる。わたしはこの人たちがそんなに嫌いではない。かわいくて楽しい。わたしのことを好きだと言ってくれる(これは本当に)。
ほとんどの時間をバイトの愚痴と恋愛の話に費やした。彼氏の話しをする子と、今脈がありそうな男の話しをする子とがいて、その内彼氏がいる子が彼氏とのLINEをみせてくれた。
ディズニーいこうよ!いきたい
-いいよ
-わたしディズニー好きだよ
いつ行っても楽しいよね
ただ好きな人と一緒に行けたらまたもっと嬉しいけどね
-にやけるんだけど
俺絶叫系苦手なんだよね
-苦手なの
いや乗れるけど
-吐かないでよ笑
-わたし世話するの嫌だよ笑
-置いてくよ笑
「すっごいキュンキュンするねえ!?」と別の女の子が言った。毎日好きだと言われるらしくて、それを聞いてまたみんなキャーッと盛り上がる。「そりゃあ毎日こんな風にLINEしてたらかわいくもきれいにもなるわ」と誰かが言った。
気になる男とLINEをしている子は、今度のゴールデンウィークに2人でディズニーに行くらしい。相手は完全に脈アリのようだったが、童貞なのでただ急かされているように思い慎重になっているらしい。
わたしには全然恋愛の経験が無く、ただ、そうなんだ、と思うしかなかった。みんながなにが嬉しくてなにに盛り上がってなにが怖いのかわからなかった。恋愛ってこういうことをするのか?これが毎日自分の心に何か働きかけてくるのか。そこで今までわたしは好きになった人などロクにいなかったことを強く感じた。わたしは男に大事にされた覚えも利己的に消費しようと企まれることもなかったなと思った。自分の中にいつもある乾きのようなものはここからくるのだろうか。親を大事にしようと思ってもどうしても何かが許せずそのように気持ちを費やせない、友達といて心の中で急速に壁ができる時、そういうことはすべてここに帰結するのかな? と思うとなんだかウケてワハハと言うてしもた
加えて今日アイドルのコンサートがあり、ツイッターのフォロワーのほとんどがその公演に入っており終演後レポを書いていたが、みんなアイドルの挙動や垣間見える人格を、よく見てよく覚えていたものだった。レポの言葉から伝わってくる温度が高かった。自分のことを思い返すと、わたしはただ曲がかかって踊れることが幸せで、誰がなにを言ったとか、なにをしていたとかそんなことはもうほとんど、眼中にもなかった。あるいはネタ的に消費するのみで、エモーショナルにつながることはあまりなかったように思う。わたしは彼らの人生なんて背負えんと思った。前も書いたけどわたしは多分どんな人の人生の話もストーリーとして消費することしかできないようなそんな人間な気がしているしその確信はだんだん近づいている。自分の中にある乾きと同じ性質だと思う。とか考えてまた笑てもうた
人の気持ちがわからん 全然わからん なんでみんなわかるの?すごい。わたしの中の何かがずっと死んでおりもう終わりなような気がして怖い。みんなディズニーに行きたいとかなにをしたいとか吐くなよとかそんな話をして生きていくのがよくあることなのか。わたしが直近で男に送ったLINEなんて「デブがスミノフ飲むな」だったぞ
恋愛ができないことよりも恋愛の中でみんなが得てる生き生きとした心や人生が自分の視覚にも手中にも収まっている感覚がわたしに大幅に欠けているということが怖い それらはすべて他のことにゆるやかにつながっており、楽しんでやれると思っていたオタク活動にも影響していってしまう…なぜなら正直わたしはアイドルがなにをしようがなにをいようが究極はどうでもいいから。わたしの意のままに消費することしかできない、心があまりにも死んだような人間
あまりにも死んだような人間 yeah
アイドルの1エピソードに興味を持って記憶して心がどのようにかでも動かされるのってすごいことだと思う。わたしはそれは多分、できないのだ それがまたわたしを落胆させる
と思っていたらもう友達たちはわたしの部屋で漫画を読んだり寝たりしていた。早く帰れと尻を叩いたらよく笑った
わからんことばっかりだ より良い人間になりたい 気をつけて帰れよ 心が死んだまま生きてくのか俺は ピザは美味かった また来いよ